第14章【電子の相対的時空間密度】

 S´系において円軌道を伝播する光子の速度は不変な光速度Cであるが、他方S系にいて螺旋軌道を伝播する光子についても、その速度は同一の光速度Cである。

 そうすると、光子が螺旋軌道を一周したときの運動距離と、円軌道を一周したときの運動距離

´は1/√[β2]の割合で異なるにもかかわらず、その速度は同一の光速度Cなのであるから、たとえば円軌道を一周したときの所要時間´25億分の1秒であるものとすると、速度vが秒速18万㎞である場合の螺旋軌道を一周したときの所要時間/4倍で長くなり、25億分の1,25秒となる。

    ※{以下は1/√[β2]γ√[β2]を1/γと記すものとする。}

 すなわち、S´系において光子が R´点から N´点を経て再び R´点に戻ってくるまでの時間が 25億分の1秒であるのに対して、S系において光子がR点からN点を経てR点に至るまでの時間が25億分の1,25秒なのであるから、S´系で光子が再びR´点に戻ってきたとき、S系ではその光子はいまだにN点とR点の中間点に位置していることになり、S系において光子がR点に到達したときの時刻はS´系において光子がR´点に到達したときの時刻よりも25億分の0,25秒遅れていることになる。    

 ところがここで、いずれにしてもS´系において円運動を行う光子が、それら全体として右方向へ変位したときの軌道がS系における螺旋軌道なのであるから、その同一の光子がS´系のR´点にあるときには、そのR´点はS系のR点にあり、また光子がN´点を経て再びR´点に戻ってきたときには、そのR´点はS系のR点に位置しているはずである。ということは、S系において光子がR点に到達したときの時刻と、S´系において光子がR´点に戻ってきたときの時刻はあくまでも同一なのであって、この場合に異なっているのは、密度的な時間の進み方であるということができる。   


 つまり、S系において光子がR点に到達したときの時刻は、S´系において光子がR´点に到達したときの時刻よりも25億分の0,25秒遅れているというのは、S系において螺旋軌道を一周したときの25億分の1,25秒という時間は、S´系において円軌道を一周したときの25億分の1秒という時間よりも、その時間の進み方が1/γ(4/5倍)で遅れているということに他ならない。

 すなわち再度換言して述べると、S系で螺旋軌道を運動(伝播)する光子とS´系で円軌道を運動する光子は、その一周あたりの運動距離が/4 の割合で異なるにもかかわらずその速度は同一の光速度Cなのであるから、S´系において光子がCなる速度でR´P´R´の円軌道を一周したときの25億分の1秒という時間´の進み方は、S系において光子がCなる速度でR Rの螺旋軌道を一周したときの25億分の1,25秒という時間の進み方よりも/4倍で早くなっており、逆にS系における25億分の1,25秒という時間の進み方は、S´系における25億分の1秒という時間´の進み方よりも4/5倍で遅くなっているのである。

       

 ところで序論でも述べたように、高速度のミュー粒子の寿命は、地上の観測者からは延びているように観測される。そこでミュー粒子そのものからみた地上の観測者の時間も同様に遅れているとするならば、現実に寿命が延びているのを観測したはずの観測者の所有する時計の進み方は、あらゆる意味で矛盾したものとなり、そこには明らかな二律背反が発生する。したがって、地上の観測者からみたミュー粒子の時間は遅れているというのであれば、相対的には、観測者の地上の系におけるその時間の進み方は、ミュー粒子からみると早くなっているものとしなくてはならない。

 ならばそこで、S系において螺旋軌道運動を行う複数光子の、その全体である電子であるが、これはその速度が大きければ大きいほど、S系の観測者からみたその運動する電子の時間の進み方は1/γ倍で遅れるのであるから、逆にその電子からみたS系の観測者の持っている時計の進み方はγ倍で早くなっているということになる。

 そうすると、たとえば光子がS´系において25億分の1秒で円軌道を一周したということは、その電子全体はS´系において25億分の1秒で一回転したということであり、またその光子がS系において25億分の1,25秒で螺旋軌道を一周したということは、電子全体はS系において25億分の1,25秒で一回転したということである。

 したがって結果的には、いかなる電子はその速度が大きければ大きいほど、その回転のしかた

(回転の周期)が1/γ倍でより遅くなるものといえるし、逆にそのS´系の電子からみたS系の観測者における時間の進み方はγ倍でより早くなっているのである。 

 

✧空間密度の相対性

 S´系の電子とS系の観測者の二者において、上記のような時間密度の相対的関係(逆比例の関係)が成立しているのであれば、両者の空間密度についても同様なことがいえるはずである。

 たとえば、S´系において光子が円軌道を25億分の1秒で一周したということは、電子全体がS´系で一回転したときに要した時間´25億分の1秒であるということである。

 この場合に、電子全体はS系のz軸を右方向へ速度v(18万㎞s)で進行しているのであるから、その電子自らは25億分の1秒で一回転する際に、S系のz軸を

(18万㎞/s)×(1/25億秒)18万㎞/25

7,2進んだということになる。


 他方、S系において光子が螺旋軌道を一周

したときの所要時間25億分の1,25秒なのであるから、この場合の電子は25億分の1,25(20億分の1秒)で一回転する際に、S系のz軸を

(18万㎞/s)×(1/20億秒)18万㎞/20

 の9㎝進む。

 ということは、S系の観測者によれば、秒速18万㎞で運動する電子は、25億分の1,25秒で一回転する際に9㎝の距離を運動するが、その9㎝というz軸上の長さは、S´系において不変に25億分の1秒に一回の周期で回転する電子からみると、4/5倍の7,2㎝に収縮してみえるということになる。 


 そうすると、S系のz軸を秒速18万kmで運動する電子は、一回転する際にRRの9㎝の距離を運動するが、S´系の電子からみたそのz軸上のRRの距離は7,2㎝に収縮してみえるのであるから、電子からみたS系におけるz軸の長さはその一切が4/5倍で収縮していることになり、ちなみにS系の観測者の姿もz軸に沿って4/5倍に収縮していることになる。 


 ところで、ここで述べている電子内光子のS´系における波長は、簡単のため1㎝であるものと仮定されているのであるが、この電子のz´軸上の長さ、すなわち電子の横幅についてもこれを1㎝であるものとすると、その1㎝の横幅の長さは、S系の観測者によれば1,25㎝に拡張しているはずである。

 なぜなら、電子が一回転する際に進んだ距離RRは、S´系の電子からみると7,2㎝にみえ、S系の観測者から見れば9㎝にみえるのであるから、電子のS´系と観測者のS系におけるそれぞれの空間密度(それぞれの物差しの密度)は異なっていることになり、すなわち

         S´系/S系=7,2㎝/9㎝

                         =4/5

                         =1㎝/1,25

 であるから、S系における9㎝の長さはS´系からみると4/5倍の7,2㎝に収縮してみえ、逆に

´系における1㎝の長さはS系からみると5/4倍の1,25㎝に拡張しているのである。

 そうすると、ここで前出の時間の相対密度もあわせて述べるなら、S系の観測者からみたS´系の電子の時空間は5/4倍で拡張している(密度は4/5倍で薄くなる)が、逆にS´系の電子からみたS系の観測者の時空間は4/5倍で収縮している(密度は5/4倍で濃くなる)ことになる。

 すなわち、S系の観測者からみた電子は、その速度が大きければ大きいほど、進行方向の長さはγ倍で拡張(空間密度は1/γ倍で減少)し、またその一回転の際に要する時間もγ倍で長く(時間密度は1/γ倍で減少)なる。

 逆に、S´系の電子からみたS系の観測者のz軸方向の長さ(あるいは軸上に置かれた物差しの長さ)は、1/γ倍に収縮(空間密度はγ倍で増大)し、観測者の持つ時計の時間の進み方は1/γ倍で短くなり、1秒なら1秒という時間の長さが1/γ倍で短縮(時間密度はγ倍で増大)するということができる。

{時間の進み方の、相対的な遅さ早さの関係で述べるならば、観測者からみた電子の時間の進み方は1/γ倍で遅れており、逆に電子からみた観測者の持つ時計の進み方はγ倍で早くなるということになる。

 したがって、いずれにしてもS系の観測者とS´系の電子の二者で相互に座標変換を行った場合、両者における時空間密度はγすなわち1/√[β2]という因子を介して、常に真逆(逆比例)なかたちで相対的に表されるということができる。