自動車という乗り物は、もとよりタイヤの回転によって進行するわけで、自動車の直進運動とタイヤの回転運動は、両者一体となって連動している関係である。したがって、自動車の観測者Bは、ポイントbの運動を常に等速円運動として観測するのであるが、この等速円運動の速度と自動車の直進運動の速度は同一である。
※{以後は、自動車の直進運動の速度をv、ポイントbの等速円運動の速度をⓋと記すものとし、またポイントbが円軌道を一周したときの時間をtとする。}
ならば次に、自動車の直進運動には関係なく、常に一定の固有な回転運動がある場合はどうであろうか。
たとえば、扇風機のように自動車が停止している場合でも、その一定の回転が自動車の直進運動と切り離され、独立した系として成り立っている場合に、その扇風機の一枚の羽の円周上部分に付けられたポイントbの運動は、自動車内のBと地上のA ではどのように観測されるのであろうか。
まず、S´系におけるBの観測であるが、Bによればポイントbは不変に一定の等速円運動を行って観測されるが、S系のAからみると自動車はx軸を右方向へ速度vで運動し、その速度vは等速円運動のⓋよりも小さいものとすると、地上のAが観測するポイントbは、右下図のような二次元上の曲線を描く。
※{右上図のような形状の二次元曲線はサイクロイド曲線の一種とされるが、本論では、これを二次元螺旋軌道と称するものとし、略してⅱ螺旋軌道と記すものとする。また、本章後半に述べられる三次元上の螺旋軌道については、そのまま螺旋軌道と記すものとする。}
このⅱ螺旋軌道においては、右図のようにポイントbがx軸上のQ点やP点の位置にあるときの速度はⓋであるが、R点ではⓋ+v、N点ではⓋ-vとなる。したがって、地上のAからみたポイントbの速度は、その軌道上の各位置によって異なり、絶えず変化していることになる。
S´系内(自動車内)においては、ポイントbは不変にⓋの速度で等速円運動を行っているのであるが、ポイントbがある時刻にR´点を出発し、P´点を経てN´点に至るまでの半円の距離を運動するとき、S系においては、そのポイントbはⅱ螺旋軌道の R点を出発しP点を経てN点に至る。
この場合に、S系のy軸におけるefの長さは、S´系のR´点とN´点を直線で結んだ長さ(すなわち円の直径) R´N´に等しいのであるから、R点とN点を直線で結んだときのRNの長さは、三平方の定理により
RN=√[(RR2/2)2+(R´N´)2]
※{ √ ̄ ⇒ √[ ]}
と表すことができる。また直線 R´N´と直線R Nの比は、円軌道の半円の弧 R´P´N´とⅱ螺旋軌道半周分の弧 R P N の比と等しく、
R´N´/ R N=R´P´N´/ R P N
であり、この場合にR´P´N´の半円は2πr/2であるからポイントbがS´系の円軌道を半周したときのR´P´N´と、S系のⅱ螺旋軌道を半周したときの R P N の比は、
R´P´N´/ R P N =(2πr/2)/√[(RR2/2)2+(2πr/2)2]
と表すことができる。
したがって、ポイントbがS´系において R´P´N´R´の正円軌道を一周したときの距離L´とS系において R P N R2のⅱ螺旋軌道を一周したときの距離Lとの比は
L´/ L=(2πr )/√[(RR2)2+(2πr)2]
となり、これはまた
L´/ LⓋ/√[v2+Ⓥ2]
であるから、ゆえに
L= L´√[1+β2] ※{β=v/Ⓥ }
が導出される。
そうするとポイントbがS系においてⅱ螺旋軌道を一周したときの距離Lは、S´系において円軌道を一周したときの距離L´よりも√[1+β2]倍で長くなっているにもかかわらず、ⅱ螺旋軌道を一周したときの所要時間と、円軌道を一周したときの所要時間はあくまでも同一のtなのであるから、ポイントbがⅱ螺旋軌道を一周したときの平均の速度は、円軌道におけるよりも√[1+β2]倍で速くなっていることになり、すなわち
L/t= L´√[1+β2]/t
=Ⓥ√[1+β2]
となる。
そこで次に、上記の一台の扇風機を一つの電子に置き換え、すなわちポイントbのSS´系における運動を、そのまま前出10章における一つの光子に置き換えて考えてみる。
まず、S´系において円軌道を伝播する光子の速度であるが、これはやはり不変な光速度Cであるとすると、S系においてⅱ螺旋軌道を伝播する光子の速度も、その軌道上のいかなる位置にかかわらず不変に光速度Cである。
なぜなら、たとえば光子がS系のR点にあるとき、通常の質点(ポイントb)であればその速度は
C+vで速くなっていなくてはならない。ところが、この場合のR点における光子の波長は上右図のように速度vが大きいほどより長く拡張しS´系のR´点にあるときの波長よりも(C+v)/C倍で長くなる。したがって、R点にある光子の波長は速度vの増大分に比例して長くなり、単位時間あたりの振動数は逆比例して減少するのであるから、そのR点の光子の速度は、やはり不変な光速度Cなのである。
またN点における光子の波長は、速度vが大きいほどより短く収縮し、S´系のN´点にあるときの波長よりも(C-v)/C倍で短くなる。したがって、N点にある光子の波長は、速度vの減少分に比例して短くなり、単位時間あたりの振動数は逆比例して増大するのであるから、その N点の光子の速度は、やはり不変な光速度Cである。
すなわち、下左図のようにS´系において円軌道を伝播する光子の波長が、簡単のため1cmであるものと仮定したとき、その振動数は1秒間に300億回であり、速度はいずれにしても光速度Cである。
この場合に、速度v(電子全体が右方向へ運動するときの速度)が秒速10万㎞であるものと仮定すると、S系のQ点やP点の位置にあるときの光子の波長は1cmであるが、R点にあるときには波長は(C+v)/C=4/3倍の1,33・・・cmで振動数は1秒間に225億回となり、またN点にあるときには波長は(C-v)/C=2/3倍の0,66・・・cmで振動数は450億回となる。
したがって、ⅱ螺旋軌道の光子の速度は、いずれの位置にあってもことごとく一律に光速度Cと
なる。
ここで、S´系において光子が円軌道を一周するときの所要時間をt´とし、S系においてⅱ螺旋軌道を一周するときの所要時間をtとすると、円軌道を半週したときの R´P´N´とⅱ螺旋軌道を半周したときの R P N は、それぞれ
R´P´N´=C(t´/2)
R P N =C(t/2)
と表すことができ、また
RR2/2=v(t/2)
であるから、
R´N´/ R N =R´P´N´/ R P N
の関係から導かれる
( R P N )2=(R´P´N´)2+(RR2/2)2
の三平方の式は、そのまま
[C(t/2)]2=[C(t´/2)]2+[v(t/2)]2
と表わすことができ、これはさらに
(Ct)2=(Ct´)2+(vt)2
と書き直すことができる。
そこで、上式の両辺をC2で割ると
t2=t´2+(v/C)2t2
となり、さらに
t´2=t2-(v/C)2t2
=[1-(v/C)2]t2
であるから、ここで両辺のルートをとると
t´=√[1-β2]t ※{β=v/C}
となる。よってここに
t=t´/√[1-β2]
を得ることができる。
すなわち、光子がS系においてⅱ螺旋軌道を一周するときの所要時間tは、S´系において円軌道を一周するときの所要時間t´よりも1/√[1-β2] 倍で長くなる。
また、光子がS系においてⅱ螺旋軌道を一周したときの距離Lと、S´系において円軌道を一周したときの距離L´はそれぞれ
L=Ct L´=Ct´
であるから、
Ct=Ct´/√[1-β2]
∴ L =L´/√[1-β2]
となり、すなわちⅱ螺旋軌道のLは所要時間tと同様に、円軌道のL´よりも1/√[1-β2]倍で長くなる。
そうすると、前述のように光子の波長はそのⅱ螺旋軌道上の各位置によって異なるのであるが、光子が一周したときの平均の波長は、結果的に1/√[1-β2]倍で長くなり、その平均振動数は
√[1-β2]倍で減少するということができる。
ⅱ螺旋軌道におけるポイントbの運動は、すべてx軸y軸が構成する二次元面で行われるのであるから、この運動においてはz軸上における変位は一切ない。
ならばそこで、下図のようにBの自動車内における扇風機が、その進行方向に対して垂直に置かれており、これらがAのS系からみるとz軸を右方向へ変位していく場合、ポイントbはどのような運動を行うのであろうか。
まず、S´系におけるポイントbの運動であるが、これは右上図のようにx´軸y´軸の二次元面において不変にⓋの速度で等速円運動を行う。一方、S系においては、右下図のようにそれらがさらにz軸を右方向へ速度vで変位しているのであるから、ポイントbはz軸を含めた三次元空間において螺旋状の運動を行っていることになり、その速度は三次元螺旋軌道上のいかなる位置においても常に均一である。
S´系においてポイントbがR´点からN´点を経て再びR´点に戻り、その円軌道(2πr)をⓋの速度で一周するとき、S系ではポイントbはR点からN点を経てR2点に至りR点とR2点を直線で結んだRR2の距離を速度vで進む。すると、S´系で円軌道を一周したときのR´N´R´と、S系で螺旋軌道を一周したときの R N R2との比は、
R´N´R´/R N R2=(2πr)/√[(RR2)2+(2πr)2]
=Ⓥ/√[v2+Ⓥ2]
であるから、
R N R2=R´N´R´√[v2+Ⓥ2]/Ⓥ
=R´N´R´√[1+β2] ※{β=v/Ⓥ}
となる。
よってポイントbがS系で三次元上の螺旋軌道を一周したときの運動距離は、二次元螺旋軌道の場合と同様にS´系で円軌道を一周したときの運動距離よりも√[1+β2]倍で長くなっていることになり、またその速度についても、円軌道を運動するときの速度(Ⓥ)よりも√[1+β2]倍でより速くなっていることになる。
一方、この螺旋軌道運動を行うポイントbを一つの光子に置き換えて考える場合には、この光子の速度はその一切がS´系における正円軌道の速度と同一の不変な光速度Cである。なぜなら、通常の質点(ポイントb)であれば、これが螺旋軌道を運動するとき、その速度は√[1+β2]で速くなっていなくてはならない。ところが光子の場合は、その波長は1/√[1-β2]倍でより長くなり、逆に振動数は√[1-β2]倍で減少する。したがって、いずれにしてもその光子の速度は、やはり不変な光速度Cなのである。
S´系において光子が R´点から N´点を経て再び R´点に戻り、その円軌道を光速度Cで一周するとき、S系における光子はやはり光速度Cで R点からN点を経てR2点に至り、R点とR2点を直線で結んだ RR2の距離を速度vで進む。
すると光子がS´系で円軌道を一周したときのR´P´R´
(L´)と、S系で螺旋軌道を一周したときのR P R2(L)
との比であるが、これはやはり
R´P´R´/R N R2=(2πr)/√[(2πr)2+(RR2)2]
と表され、ゆえに
(R N R2)2=(R´P´R´)2+(RR2)2
となり、上式はそのまま
(Ct)2=(Ct´)2+(vt)2
と書き直すことができる。
よってここに
t=t´/√[1-β2] ※{β=v/C}
が得られ、螺旋軌道のR N R2を伝播したときの所要時間tは、円軌道のR´P´N´を伝播したときの所要時間t´よりも1/√[1-β2]倍でより長くなっていることになる。
また、いうまでもなく
L=L´/√[1-β2]
であるから、これら三次元上の螺旋軌道光子における時間、距離、速度の値は、すべてⅱ(二次元)螺旋軌道光子の場合とまったく同一ということになり、その一周あたりの時間と距離はいずれの場合も1/√[1-β2]倍で長くなり、その際の光子の速度は、やはり不変な光速度Cとなる。
そこで、たとえばS´系で円軌道を伝播する光子の波長λ´が1㎝であり、振動数が1秒間に300億回であるものとすると、その一回の振動に要する時間T´は300億分の1秒であるが、この一振動あたりの微小な時間T´は、S系で光子が螺旋軌道を伝播するときには1/√[1-β2]倍でより長くなっていることになり、ちなみに速度vが秒速18万㎞である場合のS系における時間Tは、300億分の1,25秒(240億分の1秒)となる。
《v=18万㎞/s √[1-β2]=4/5=0,8 1/√[1-β2]=5/4=1,25 》
螺旋軌道を伝播する光子の、1振動あたりの所要時間Tが 1,25倍で長くなっているということは、その一回の振動のあった空間の長さ(すなわち波長)も、やはり1,25倍で長くなっているということであるから、S´系における円軌道を伝播する光子の波長1㎝は、S系の螺旋軌道においては1,25㎝に伸びて長くなっていることになり、この場合の光子の速度は、S´系S系のいずれにおいても同一の光速度Cとなる。
S´系 λ´ (1cm) / T´(1/300億秒)=C(30万km/s)
S 系 λ(1,25cm)/ T(1,25/300億秒)=C(30万km/s)
すなわち、通常の質点(ポイントb)であれば、これが螺旋軌道を一周するとき、その所要時間は円軌道の場合の所要時間と同一不変のtであるが、その速度は円軌道を運動するときの速度Ⓥよりも√[1+β2]倍で速くなるために、運動距離Lも√[1+β2]倍で長くなる。
S´系 L´/t=Ⓥ
S 系 L√[1+β2]/t=Ⓥ√[1+β2]
ところが光子の場合は、その一周あたりの所要時間tも、運動距離Lも1/√[1-β2]倍で長くなり、またさらに、その一振動あたりの微小な時間Tも、その一回の振動のあった空間の長さであるところの波長λの長さも1/√[1-β2]倍で長くなる。そして、この場合の螺旋軌道光子の速度は、やはり不変な光速度Cを現わすのである。